Degenerative
変性疾患
認知症とは

認知症は脳疾患によって脳の神経細胞が本来行うべき働きが下がることに伴って、判断力や記憶力などの認知機能も低下し、生活に支障が出る状態を指します。
日本では高齢化が進行しており、それに伴って認知症の発症数も増えています。厚生労働省が出している報告では、2022年の認知症高齢者数は443.2万人でしたが、2040年には584.2万人に増えると予想されるなど、今後も増加傾向が続きそうです。また、認知症の前段階と定義される軽度認知障害(MCI)は上記の厚生労働省の報告で、558.5万人も存在していますから、前述の認知症患者数とあわせると1,000万人を超えます。
さらに、65歳未満の人が発症する若年性認知症もあるため、認知症は誰もがリスクをもつ疾患であることを認識しておくべきでしょう。
認知症の原因となる病気
認知症の原因となる疾患は複数存在します。脳に関連する疾患は専門性がない方にとっても関連性を想像しやすいですが、脳以外の疾患が関連する例もあることをぜひご確認ください。
神経変性疾患
- アルツハイマー型認知症
- 前頭側頭型認知症
- レビー小体型認知症
- ハンチントン病
- 進行性核上性麻痺
- 脊髄小脳変性症
- 皮質基底核変性症など
脳血管障害
- 血管性認知症
脳梗塞(塞栓または血栓)、脳出血などによるもの
頭部外傷
- 脳挫傷
- 脳内出血
- 慢性硬膜下血腫など
悪性腫瘍
- 脳腫瘍(原発性、転移性)
- 癌性髄膜炎など
感染症
- 髄膜炎
- 脳炎
- 脳膿瘍
- 進行麻痺
- クロイツフェルト・ヤコブ病など
代謝・栄養障害
- ウェルニッケ脳症
- ペラグラ脳症
- ビタミンB12欠乏症
- 肝性脳症
- 電解質異常
- 脱水など
内分泌疾患
- 甲状腺機能低下症
- 副甲状腺機能亢進症
- 副腎皮質機能亢進症
- 副腎皮質機能低下症など
中毒性疾患
- 薬物中毒(向精神薬、ステロイドホルモン、抗癌剤など)
- アルコール
- 一酸化炭素中毒
- 金属中毒(アルミニウム、水銀、鉛など)
その他
- 正常圧水頭症
- 低酸素脳症など
認知症が一気に進行する原因
認知症の原因は多数存在しますが、多くは脳細胞がダメージを受けることで起こると考えられています。また、脳内の神経細胞にトラブルが起きた場合や、脳の萎縮、脳梗塞などの疾患に起因する例もあります。
その一方で、生活習慣病に関連して認知症のリスクが高まることも知られており、好ましくない生活習慣が認知症の契機になったり、進行を早めたりすることも明らかです。そのため、日常生活を適切にすることが認知症の予防になりますし、発症後にも進行を穏やかにする作用も期待できます。
脳への刺激の減少
高齢の方に対しては、家族をはじめとする周囲の方が身辺の世話をしがちですが、行動が減ると脳への刺激も減少するため、認知症が進みやすくなります。これを踏まえて、ご自身ができることはそのまま続けてもらうこと、意識的に外出を促すなど脳に刺激を与え続けることが大切です。寝たきりの生活を避けるためにも、ぜひ意識してください。
ストレス
認知症を発症していても、初期段階では自分ができることに取り組む方が多いとされています。しかし、努力してもできないと認識してすべてに消極的になったり、できないことが増えていくという不安がストレスになったりします。
ストレスが増えると体内でストレスホルモンが増加して脳に血液が送られにくくなるため、さらに神経細胞にダメージが及ぶこともあります。ほかにも高血圧やうつ病も認知症を悪化させる可能性があるため、極力ストレスを解消するよう心がけましょう。
生活習慣の乱れ
睡眠や食事などの生活習慣が乱れると、認知症が進行しやすくなります。特に入院や治療で何もしない時間が増えると、それ以前には可能だったことができなくなるという例が多いので、ぜひご注意ください。また喫煙や肥満、過度な飲酒などの要素も認知症を悪化させるので、積極的に改善・解消を心がけましょう。
急な環境変化
配偶者などの身近な人の死去や社会的に孤立するなどの変化が、認知症の発症や進行に関連することはすでに知られています。また、認知機能の低下が始まっている状態で部屋の模様替えや引っ越しなどを行うと、混乱が認知症を進める場合もあります。
身体機能の低下などから施設への入居を考えることもあると思いますが、入居による環境の変化が認知症を進めることもあるので、施設の利用にあたっては総合的に検討しましょう。
認知症の主な症状
認知症による主な症状である認知機能の低下には以下のようなものが挙げられます。
記憶障害
「物忘れが激しい」、「同じ話ばかりしている」といったことが増えます。物品やお金を置いた場所を忘れて、盗難を疑ってしまうというケースもありますし、必要な薬の飲み忘れや、調理後の火の消し忘れなどは危険を伴うので要注意です。
注意障害
集中力や注意力の低下も起こりがちです。そのため、会話が噛み合わなくなったり同時に何かを処理することが難しくなったりします。
言語障害
単語が出ない、言葉が選べない、言われたことが理解できないといったことが起こります。
見当識障害
場所や現在の日時などがわからなくなる症状です。この影響で徘徊をしてしまう人もいます。
実行機能障害
順序よく行動したり、計画を立てたりすることが難しくなり、家事や買い物などの効率が低下します。
認知症の治療
認知症の治療は、薬・手術・非薬物療法によって行われます。
薬物療法

NMDA受容体拮抗薬とアセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、根本治療が困難な認知症に対して、進行を止めるために処方します。保険適用なので患者さんにとって費用負担が少ない点もメリットです。
レビー小体型認知症やアルツハイマー型認知症には、中核症状を抑えるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が有効です。アルツハイマー型認知症を発症するとアセチルコリンという神経伝達物質が不足して、集中力や記憶保持力などが低下します。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬はアセチルコリンを分解する酵素の働きを阻害するため、情報伝達機能の維持に役立ちます。
NMDA受容体拮抗薬は神経細胞の保護に役立つ薬剤です。効果としては、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸を受け取るNMDA受容体に結び付いて、神経細胞を傷つける刺激を防止します。これによって情報伝達機能が整えられることが期待できます。
初期のアルツハイマー型認知症や軽度認知機能障害では原因物質であるアミロイドβを除去する薬剤もあります。希望や適応のある方は紹介させていただきます。
回想法

以前の記憶を思い出し、他者に話すことで認知機能を上げる非薬物治療です。認知症になると新しい記憶は思い出しにくいですが、古い記憶であれば思い出しやすいことが知られています。これによって認知機能が上がれば生活の質もアップしますし、自信の回復や思い出を話すことの喜びなどが得られます。そのため、心身の活性化に貢献する点も大きなメリットです。過去の思い出がある場所へ行くことや、昔見た映画やドラマを見ることも回想法として有効です。
認知リハビリテーション

パズルや計算ドリル、ゲームなどを用いて行う非薬物療法で、一般には「脳トレ」と言われる行動です。脳機能を意識的に使うことで、認知機能の回復や維持が期待できます。
認知刺激療法

音読や計算のほか、トランプを使ったゲームなど楽しみながら脳に刺激を与え、認知機能の改善を目指す非薬物治療です。
パーキンソン病とは

パーキンソン病になると、脳の特定の部位が少しずつ変性していきます。その結果、動作していないときに筋肉がふるえる安静時振戦や、随意運動の遅れ、筋肉のこわばりや筋強剛、身体のバランスを取りにくくなる姿勢不安定、思考障害などが起こります。
50歳以上の方に多い疾患で、65歳以上の人であれば1%程度の人に見られるなど年齢が上がるほどリスクも上がります。そのため高齢化が進む日本では増加傾向が見られますし、40歳以下に起こる若年性パーキンソン病も存在します。
パーキンソン病の症状
パーキンソン病には運動症状と非運動症状があります。また、パーキンソン病に似た疾患の総称である「パーキンソン症候群」も存在しますが、パーキンソン病とパーキンソン症候群は異なります。そのため、きちんと医師の診断を受けることをおすすめします。
運動症状
運動症状は無動、筋強剛、静止時振戦、姿勢反射障害の4種類に分類されます。これらはパーキンソン病の初期に見られることもあり、診断に役立ちます。特に無動と静止時振戦が見られる場合はパーキンソン病であることが疑われます。一方、姿勢反射障害はパーキンソン症候群の初期症状として知られているので注意が必要です。
ほかにもすくみ足や嚥下障害、歩行障害や姿勢異常などもパーキンソン病の症状として知られています。運動症状は初期には身体の左右どちらかに見られることが多いですが、時間の経過とともに左右どちらにも表れます。
無動(むどう)
- 早い動作が困難
- すくみ足(歩行時に足が前に出にくい状態)
- 話し声が小さくなり抑揚も減る
- 書く文字のサイズが小さくなる
筋強剛(きんきょうごう)
- 指や肩、膝などの筋肉がこわばって動作しにくい
- 顔の筋肉が動かしにくく、表情が減る
- 筋肉の痛みを感じることもある
静止時振戦(せいしじしんせん)
- 動作していないときに四肢がふるえる
- ふるえは片方の手、または足から始まりやすい
- 眠るとふるえは止まるが、目覚めるとまたふるえが起きる
- ふるえは毎秒4 ~6回程度
姿勢反射障害
(しせいはんしゃしょうがい)
- 身体のバランス維持が困難になり転倒が増える
- 歩行を止めることや、方向を変えることが難しくなる
- 悪化すると身体が斜めになったり、首が下がったりする
- 転倒などで骨折が増える
非運動症状
パーキンソン病では、運動症状の他にもさまざまな非運動症状が見られます。非運動症状の中には運動症状の前に現れるものがあります。
自律神経症状
便秘や頻尿、起立性低血圧(立ちくらみ)・食事性低血圧(食後のめまいや失神)、発汗、むくみ、冷え、性機能障害
認知障害
いくつかの手順を踏む行動が計画できなくなる遂行機能障害(すいこうきのうしょうがい)、物忘れがひどいなどの認知症症状
嗅覚障害
においがしない
睡眠障害
不眠や日中の眠気、レム睡眠行動障害、レストレスレッグス症候群
精神症状
うつ・不安などの症状、アパシー(身の回りのことへの関心がうすれてしまったり、 気力がなくなったりする状態)、幻覚や錯覚、妄想などの症状
疲労や疼痛、体重減少
疲れやすい、肩や腰の痛み、手足の筋肉痛やしびれ、体重の減少など
パーキンソン病の原因
パーキンソン病は、脳内に存在し、身体の動作調整に関係するドパミン神経細胞が減少することで起こります。
ドパミン細胞が減少すると、身体のふるえが起きたり動作が困難になったりします。ドパミン細胞は誰でも加齢とともに減りますが、パーキンソン病の患者さんはドパミン細胞の減少速度が一般的な状態より早いことが知られています。
ドパミン細胞が減る速度が上がる理由はまだ解明されていませんが、ドパミン細胞内にある特定のたんぱく質の凝集が関連することによるという説が有力です。
パーキンソン病は遺伝に関係しない例が多いとされますが、遺伝的要因が関与するケースもあります。また、環境要因や加齢も関係すると考えられています。
パーキンソン病の治療
パーキンソン病の治療においては、薬物療法を中心に進めます。ただし、ストレッチや散歩などの運動を継続して、意識的に体力を高めることも欠かせません。また、気分が低下することもあるかと思いますが、動作の低下にもつながるので、ポジティブな気持ちを持つよう心がけましょう。意欲的に行動するとドパミン神経が働くので、パーキンソン病の進行抑制が期待できます。
薬物療法

パーキンソン病の薬物療法では、症状の軽減や生活の質を高めることを目標として、内服薬を処方します。継続的にこの治療を行えば、症状の改善もできますし、発症前とさほど変わらない暮らしができるケースもあります。
パーキンソン病の治療薬は、神経変性疾患に対するものとしては非常に多く存在しており、近年は皮下注射薬や貼り薬も開発されています。パーキンソン病の治療薬は、不足するドパミン細胞を補うものが多いですが、薬剤ごとの違いもあるので、状況に合わせた処方を行っています。
進行期には大脳深部刺激療法や収束超音波療法等の外科治療もあるため、適応により該当施設に紹介させていただきます(パーキンソン病治療ガイドライン)。
当院の取組み
神経変性疾患の種類
神経細胞に不溶性の凝集体が出現し、神経細胞死を起こし、神経機能が低下する病態を神経変性疾患と言います。代表例として、アルツハイマー型認知症の場合にはアミロイドβ、パーキンソン病ではレビー小体が凝集します。
診断の流れ
1
症状の鑑別
アルツハイマー型認知症の場合、パーキンソン病の場合、それぞれ特異の症状を呈するため、神経診察より症状の鑑別を行います。
2
脳疾患の鑑別
次に、脳疾患の鑑別のために、頭部CTで鑑別を行います。原因対応により治療可能な状況の場合は、対応します。
3
精密検査
頭部MRI、脳血流シンチ、ドパミン機能検査等必要な場合には該当施設紹介で検査を行ったうえで、診断を行います。
治療の流れ
診断の上で、神経変性で低下した神経伝達物質を増強するような薬剤を内服していただき、治療効果確認の上で症状の安定化を計ります。自律神経障害等の主症状以外の症状も伴うため、それらの検討を行い、対応を行います。
パーキンソン病をはじめ神経変性疾患は進行性の病態のため、症状に応じて治療選択が大事で、ガイドラインを参考に治療を行います。症状によっては外科手術等の治療を行うこともあり、当該施設に紹介し、対応をお願いすることもあります。
軽度認知機能障害の場合
最近、アルツハイマー型認知症の前段階と考えられる軽度認知機能障害の場合には、点滴で進行を遅延させる治療が可能とのなりました。適応がある場合には、該当施設に相談の上で対応します。
